新刊:船山徹著『梵網経』

京大人文研・船山徹先生が永年従事されてきた梵網経研究が纏められ『東アジア仏教の生活規則 梵網経 最古の形と発展の歴史』と題して臨川書店から出版されました。これはかなり専門的でかたい研究書ですので、ここで文献学的な価値やら意義については述べませんが、内容的にヴィーガンの人にとって面白い話題が扱われていますので、その点だけをご紹介します。 

日本仏教とくに鎌倉時代以降の戒律を考える時に一番大事な経典のひとつがこの『梵網経』です。天台宗をひらいた最澄が「円頓戒」の説を唱えて大乗仏教の修行者が守るべき戒律は『梵網経』に説かれている「十重四十八軽戒」に尽きるのだ、と主張してその後の日本仏教の祖師達に影響を与えたのですが、この四十八軽戒の中に肉食を禁ずる第三軽戒と、五辛を禁ずる第四軽戒があります。いわゆるオリエンタルヴィーガンの根拠がここにあるのです。
 肉食を避ける理由は通常考えられている理由つまり、すべての衆生に仏陀となる素質(如来蔵)があるのだから動物を食べるのは仏陀を食べるのと同じだ(涅槃経系の理由)とか、自分の祖先の生まれ変わりかも知れない動物を食べることは両親を食べることと変わらない(央掘魔羅経系の理由)が中心なのですが、興味深いのは、ニラや葱などの臭いの強い五辛を禁ずる理由と肉食を禁ずる理由とを同列で論じている点です。つまりくさい臭いを発生させると他者を助けたくても逃げていく、そうすると救済活動に支障がある、という理由です。五辛を食べ肉食をしているとその臭いを敏感に周りは感じ取り忌避されてしまう、と言うのです。ニラやニンニクを食べると精がつき過ぎるから駄目だ、という巷で良く耳にする理由は初期にはなくて後世の説らしいのです。
 あります、あります。私の経験から言って、ヴィーガンになってから確かに蜘蛛やゴキブリなどの小動物が逃げなくなりました。初期仏教の戒律関係の文献の中に熊やヒョウなどの肉を食べてしまうと山中で肉食獣に襲われるからぜったいに食べてはだめ、という文章を見たことがあります。動物は肉や血の臭いに敏感です。この本には一切そんなことは書かれていませんが、酒の臭いをぷんぷんさせた坊さんのお説教も聞きたくはありませんよね。